東北大学 感染症共生システムデザイン学際研究重点拠点

EN

拠点の目指すもの

 人類にとって未知の感染症である新興感染症が、21世紀の人類にとって大きな脅威となる可能性は1980年代から指摘されてきました。実際に21世紀に入るとSARS(急性重症呼吸器症候群)・MERS(中東呼吸器症候群)・エボラウイルス病・ジカウイルス感染症などのグローバルな問題となる感染症の流行が相次いで発生しました。しかし、このような自然からの警告というべき流行を経験しても、世界はそのようなリスクに向き合わず、むしろ新興感染症への脆弱性は急速に加速してきました。
 そのような中、2019年、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が出現したのです。
 2002年に出現したSARSは8ヵ月あまりで世界的な封じ込めに成功しましたが、COVID-19の収束はいまだに見通せない状況で、今も全世界で毎日非常に多くの人が感染しています。その理由として、SARSに比べCOVID-19は、はるかに制御困難な感染症であるということが挙げられます。しかし、深刻なパンデミックにつながった理由はそれだけではなく、COVID-19の拡散のスピードが17年前のSARSに比べはるかに速く、そのスピードに人類は追いついていけず、すべての対策が後手に回ってしまったということがあります。経済効率を追い求めてグローバル化を進めてきたことにより、人類がこのウイルスにそのような拡散スピードを与えてしまったことが、その原因であったことは明らかでです。
 一方、科学技術はSARSの出現した17年前に比べ格段の進歩を遂げています。COVID-19の原因ウイルスは迅速に同定され、SARSの流行時には考えられなかったようなスピードで抗ウイルス薬やワクチンの開発も進んできています。抗ウイルス薬は一定の効果があると考えられており、新たに開発されたワクチンも有効性が示されています。
しかし、抗ウイルス薬もワクチンも短期的にはこの問題を完全には解決できないと考えられます。未だに軽症例も含めた多くの感染者に投与できるような抗ウイルス薬は存在せず、ワクチンの供給の問題も大きな課題となっています。何よりも、欧米の先進国や新興国を中心として、これまでに250万人を超える命を救えなかったことは科学技術の限界を示しています。
 COVID-19は社会全体にさまざまな問題を生んでおり、単なる医学や公衆衛生だけの問題ではなくなっています。そういった中、対策の策定にあたってはさまざまなことを考慮する必要がありますが、社会・経済活動と感染症対策のバランスをどうとっていくか、ほとんどの国が当初より苦慮している課題です。
 日本では、特に大都市圏で感染連鎖を断ち切ることがより難しく、このことが第2波・第3波の流行につながったと考えられます。これは、大都市圏を中心とした、より対策の困難な人々の間にこのウイルスが入り込み、「見えないクラスター」を形成するようになった結果だと考えられます。このような人々にどうアプローチしていくかということは大きな課題となっています。
 さらに、日本の対策は基本的に市民の自発的行動変容に依存しています。しかし、行動変容は、人々の心理や関連する情報の拡散など、さまざまな要因によって影響されます。現在の数理モデルでは、このような行動変容の全体を数値化し評価することは非常に困難です。COVID-19の問題を考え解決策を探るためには自然科学の力だけでは不十分であり、人文・社会学を含めた学際的なアプローチが必要なのです。
 また、このウイルスを完全に封じ込めて世界から排除することはもはや不可能であり、このウイルスとどう共生していくか、ということも考える必要があります。
 さらに、社会の中でさまざまな困難を抱えている人たちを排除するのではなく、彼らに寄り添いサポートしながら、ともに感染対策を進めていくことも、社会のすべての人をこのウイルスから守るためには必要です。

 COVID-19は21世紀の新興感染症の歴史の序章に過ぎないと考えられます。これからも新興感染症のパンデミックは起こりえます。
 直近の脅威はインフルエンザパンデミックです。今から100年余り前に起きたスペインインフルエンザのパンデミックでは世界で40,000-5,000万人が死亡したとする推計もあります。このパンデミックでは高齢者だけでなく若年層の死亡も多かったことが示されています。COVID-19が人類の脅威でなくなったとしても、以前の感染症に対し脆弱な社会に戻してしまうと、さらに大きな被害が起こるパンデミックが世界を襲う可能性は十分に考えられるのです。

 人類にとって感染症は常に最大の脅威でした。特に大規模な流行を起こす感染症は文明の発展とともに生まれてきた問題であると考えられます。人類は長い歴史の中でさまざまな教訓を得て、それらの教訓を感染症のリスクを低減する知恵として長年にわたり継承してきたはずでした。
 そういった教訓を忘れ、人類は産業革命以後、経済効率を優先し感染症に対して脆弱性を拡大させてきました。そしてその脆弱性は、21世紀に入り急速に加速したと言えます。歴史に学ぶべきこととしては、過去にも現代と同じことが起きていたと指摘するだけでは不十分であり、蓄積されてきた教訓が、長い歴史の中でなぜ忘れ去られてしまったのかを真摯に振り返ることであると思います。

 これまでの世界の経済発展を牽引してきた欧米の先進国や新興国がCOVID-19により非常に深刻な被害を受けていることは単なる偶然ではないと考えられます。
 世界はこれまでの経済効率優先の価値観を見直して、新しい世界を創造できるかどうかの岐路に立たされています。総合大学である東北大学にはその学際的な知を結集しCOVID₋19への対応策を探り、さらにCOVID-19後の世界のあり方を考えていく責務があると考えています。東北大学に新たに設置された「感染症共生システムデザイン学際研究重点拠点」では、そのための学際的研究を推進していきます。

拠点長
医学系研究科 教授 押谷仁


キックオフシンポジウム(2020年10月27日)
https://www.youtube.com/embed/huOeWhy7zTM(You Tube)

拠点について

ページのトップへ戻る