東北大学 感染症共生システムデザイン学際研究重点拠点

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第3回 SDGS-ID 公開シンポジウム「講演要旨」アップしました。

2023/03/03
東北大学感染症共生システムデザイン学際研究重点拠点・社会にインパクトある研究_C3感染症超克共催
第3回SDGS-ID 公開シンポジウム 講演要旨

第一部 基調講演

COVID-19のパンデミックから明らかになった総合知の必要性とその課題


COVID-19に対しては、迅速にワクチンが開発・実用化されるなど自然科学が果たしてきた役割は大きい。しかし、ワクチンや治療薬にもさまざまな課題があり完全な問題解決にはつながっていない。日本でも対策のほとんどが緩和されてきているなかで、流行規模は拡大し高齢者を中心として死亡者も増加の一途をたどっている。科学技術の発達した欧米で多くの感染者・死亡者を生んだ理由についても十分には検証されていない。一方で、ワクチンの不公平な分配の問題もあり、低・中開発国では報告数よりもはるかに多くの人が死亡していたとするデータも存在する。国際社会が協力して対応していればこのパンデミックは防げていた可能性も指摘されているが、実際には国際間の対立構造も生まれ、感染は急速に拡散していった。COVID-19から明らかになった課題の多くは、もともと国内および国際社会が持っていた課題が可視化されたに過ぎないという見方をすることもできる。このような問題を考えていくためには、人文・社会科学を含む真の「総合知」が必要であるが、科学の分野が高度に細分化されてしまっている現代においてそのような「総合知」を構築していくには多くの課題が存在する




土木環境工学と公衆衛生


歴史上、最も古い工学分野と言われることもある土木工学の中に人の健康に関わる研究を行う衛生講座が作られた理由は、上下水道システムを都市計画の視点から構築していく必要があったことによる。人口が減少していく今後の日本社会においては、高度成長期に敷設した上下水道システムを如何にして持続可能なものに遷移させていくか、が土木工学における衛生講座(現在は土木環境工学などと呼ばれる)に課された課題である。この課題に取り組む際には、人と生態系の健康を損なわずに、かつ炭素収支やコストが外部不経済に陥らないように上下水道システムを最適化しなければならない。本講演では、次世代に向けた上下水道システムの再構築のために必要な研究内容と、欠かせないピースとしての下水水質情報の活用について、医学と工学の協働の視点から紹介する。





死者たちの団欒変動する日本人の死生観


死者はもはやこの世にいない人物である。にもかかわらず、この地球上に、死後の世界を想定しない文明はいまだかつて存在しなかった。人はなぜ過ぎ去った者を繰り返し想起し、死後の生活ぶりに心を配るのであろうか。

死者との関係を築くことが、生者にとってどのような意味があるのだろうか。生者にとって死者が不可欠の存在であるとしても、両者の関係性は時代によって大きく変化してきた。私たちは1995年に阪神淡路大震災を、2011年に東日本大震災を体験し、膨大な数の死を目撃した。2020年からはコロナパンデミックの渦中にあって、日々多くの人々の命が奪われている。

「家」を中心とした伝統的な社会構造が大きく変動し、人口の高齢化が進んで「多死社会」といわれる状況が間近に迫っている今日、どのような死者との関わり方が求められているのか。長期的なスパンのなかに現代の死生観を位置付けながら、この問題を考えてみたい。






第二部 若手研究者発表

新型コロナウイルス感染伝播における社会的場面ごとの特徴 2020年積極的疫学調査情報の解析


新型コロナウイルス感染拡大にはクラスター形成およびその連鎖が重要である。我々は、社会的場面ごとの感染伝播の特徴を明らかにする目的で、2020年に東京都に報告された新型コロナウイルス感染者44,054人を対象として、保健所での積極的疫学調査情報を用いた後方視的解析を行った。夜間営業の飲食店および医療機関・福祉施設はクラスター形成頻度が高かった。また、夜間営業の飲食店における感染報告者は、家庭内および医療機関・福祉施設における感染報告者と比較して、早期に発生しかつ他の場面へのさらなる感染拡大を生じやすかった。本研究により、夜間営業の飲食店が新型コロナウイルス感染拡大と関連していることが示唆された。




COVID-19に漢方薬は効くのか?


漢方薬の歴史は感染症との戦いの歴史でもある。スペイン風邪など過去の治療経験を踏まえ、今回のCOVID-19に対して、日本東洋医学会主導で多施設共同研究が行われ、私も参加する機会を得た。基礎医学的に、漢方薬はSARS-CoV-2と同じ1本鎖RNAウイルスの細胞侵入・複製抑制効果があるだけでなく抗炎症、免疫調整効果をあわせもつことが確認できた。またCOVID-19患者を診療する中で2つの臨床研究を実施して、漢方薬治療により重症化を減少させる可能性を示すことができた。次の新興感染症にも漢方薬を用いた対応が出来るよう、研究を進めていきたい。




空間エアロゾルサンプリング装置の開発と実証


空間中に浮遊する新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスによる感染リスクや粒子状物質による健康被害が深刻化しており,屋内空間におけるウイルス等のエアロゾルを効率的に捕集し,解析する技術開発が喫緊の課題となっている。このような背景の下,本研究においては,屋内空間におけるエアロゾルを急速冷却により凝縮回収する装置を開発し,空間エアロゾルを回収・解析することに成功した。本講演においては,本装置の概略を解説するとともに,実施例として国際会議等でのサンプリング解析結果について報告する。




全国調査で明らかにするCOVID-19流行禍での人々の予防行動の実態


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因はウイルスであり、ワクチンの開発がされていなかった流行初期から現在に至るまで、「マスクの着用」・「換気」・「ソーシャル・ディスタンス」などの非薬剤的な予防行動への遵守が励行されてきました。しかし、その遵守状況は人それぞれ異なっており、その経時的な変化や影響する要因を明らかにすることは重要だと言えます。私たちのグループでは、大規模なインターネット調査を行うことにより、日本におけるCOVID-19の予防行動の遵守状況について明らかにしてきたので、その結果を紹介したいと思います。




感染症懸念が社会的行動に与える影響:画像刺激と質問紙を用いた行動実験の結果


行動免疫システム論によると、人は自己の感染と病原体の拡散を未然に防ぐため、心理的な回避機制として嫌悪感を進化させ、集団主義的な価値観を重視するようになった。しかし、その関係性は横断研究によって示されており、両者の因果関係を説明するには不十分である。また感染懸念は嫌悪感のみならず恐怖も含まれていることが指摘されてきたが、まだ2つの感情を分けて検証した研究は少ない。本研究では感染懸念と集団主義の関係性について、画像刺激と質問紙を用いて個人レベルで検証する。画像提示から個人の感染懸念を操作し、前後質問紙からその変化と集団主義との関係性について分析する。感染症が個人と社会をどう変えていくか、我々の研究結果から議論する。




COVID-19流行時の人流変化と感染の関係


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行対策として、多くの国でロックダウンや移動制限などの非薬物的介入(NPIs:non-pharmaceutical interventions)が実施され、NPIs実施による人流変化の感染推移への効果について各国で検証されてきた。日本においても、COVID-19の感染規模に応じて、感染を引き起こすリスクの高い人流を抑制するためのNPIs(緊急事態宣言、まん延防止等重点措置)が実施され、人々の日常的な移動行動が大きく変化した。本研究では、スマートフォンなどに基づいて観察された人流の時系列推移と感染推移の関連を分析し、各都道府県で実施されたNPIsの人流抑制を介した感染緩和への効果について検証した。




在日外国人と日本人の新型コロナワクチンの接種意向とその心理的要因の比較


新型コロナワクチンの接種は日本人だけでなく外国人住民にとっても重要だが、その接種意向に違いがあるのか、またそれを規定する心理的要因が異なるのかは不明確なままであった。本研究は、在日外国人1,986名(うち日本生まれ501名)と日本人1,704名を対象とした調査を実施し、新型コロナワクチンの接種状況・意向、その心理的要因を比較した。調査・分析の結果、外国人住民、特に日本生まれの人の接種意向は高いものの接種率は低かった。また、海外生まれの外国人住民における接種意向の心理的要因は、日本人とは大きく異なるのに対し、日本生まれの外国人住民の心理的要因は日本人と類似していた。本研究の結果は、外国人住民に対してカスタマイズされたワクチン接種促進策の重要性を示唆している。




平田篤胤による死後の創造:霊(たま)の行方の安定(しずまり)をめぐって


本発表は平田篤胤(17761843・安永五年~天保十四年)が新たな死後観を創造した点に注目し、篤胤が人間にとって避けられない死という問題を如何に受け止めたのかを論じる。国学者である篤胤は、儒教や仏教を外来宗教として否定し、古の日本に理想を見出す点で、自らを含む人間の死をどのように理解するのかということが問題となった。そのため、篤胤は神道教説や民衆信仰、記紀神話を再構成することで、儒教や仏教に依らない新たな死後を創造するのである。本発表では、篤胤が近世民衆に卑近な産土神に独自な役割を与え、人間の死後の行方を含むコスモロジーを創造したことを論じる。




活動報告

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